昨日、車を放置したので今日はバス。
コート、ニット帽、マフラー、手袋に長靴。装備は完璧。
バスが来て乗り込む。前にも空席があったが、終点まで乗るので一番後ろに座ることに。一番後ろの長い座席には高校生が二人。荷物が座席にあるので「座らせてくれる」。二人ともイヤホンをしている。もう一度、大きな声で「座らせて」。
すると、中央に私の座るスペースだけ。これじゃあ、急ブレーキを踏まれたら堪らない。「済まんけど、荷物は膝の上に置いてくれん」。左の彼が渋々、白いスポーツバッグを膝に置く。その横に座り、私も革靴が入ったリュックと仕事用の鞄を膝の上に。
私が遠慮なく要求するので、他の座席の高校生たちも居心地が悪そう。
隣の彼は「嫌な親父が来たもんだ」と思ったことだろう。ひょっとしたら加齢臭もあったかも。彼はしきりと携帯を触っている。「嫌なおっさんが隣に来て迷惑」などど友人にメールしたのかも。
私は読みかけの本を出す。鎌田實先生の「言葉で治療する」。
反対側の高校生は相変わらず、荷物を横に置いたまま。イヤホンをして目を瞑っている。
バスの中は立っている人が増えてきた。ところが、私の前の席は隣が空いているので、そこへ荷物を置いて女性が立っている。彼女が座ったら、もっと大勢が座れるのに。反対側の彼にも私が、「もっと詰めようや」とも言えるのに。
反対側の彼の態度を苦々しく思いながら、そのまま。
隣の高校生が降りる準備をしはじめた。もう高校の前のバス停が近い。その時、彼が持とうとした鞄が滑って私の足に当たった。
痛くはない。彼は何も言わない。
「あのね、こんなときは『ご免なさい』と言ってくれると気持ちがいいね」。お節介なおっさんは要らんことを思わず言ってしまった。すると彼が「済みません」と言ってペコリ。「〇校?」「はい」「おっちゃんはOBよ。要らんこと言うたな。頑張って」と席を立って、彼が出られるようにした。
彼はもう一度頭を下げて前に進んだ。
間違いなくお節介な、嫌な親父だ。でも、こんな親父が居てもいいと私は思っている。後悔は彼に話をしたときに「席を詰めてくれてありがとう」と言わなかったこと。「言葉で治療する」には程遠い。